旅と人‐後編‐

 

 

激眠のなかの観光を終えて、宿にチェックインするため、地下鉄に乗ろうと自動券売機の前にやってきました。

 

 

ところがこの券売機、カード専用。

 

手持ちのクレジットカードで試すも、なかなかうまくいかず、買えません。

 

 

 

ふと視線を感じ、後ろを振り向くと、一人の青年が立っていました。

 

 

 

待たせてしまっては申し訳ないので、私はほかの券売機に移動。

 

 

 

すると今度はキャッシュ専用券売機で、慌ててコインを投入し、ボタンを押していると…

 

 

 

またまた視線を感じ、ふと顔を上げると、真横にさっきの青年が立っていました。

 

 

 

えっ…

 

 

 

と一瞬驚いたその時。

 

 

 

 

その青年が、私の財布を鷲掴みました。

 

 

 

幸い、財布はカバンにつながれていたし、私はとっさに大声を出して財布を握りしめたので、ひったくり青年は怯み、代わりに釣銭として出てきた60セントを券売機からつかみ取り、逃げていきました。

 

 

 

 

たまたま通りかかったおじさんが、私の叫び声を聞いて事態をつかみ、ひったくり青年を呼び止めます。

 

 

 

ひったくり青年がふいに立ち止まり、こちらを振り返ったので

 

 

 

それ私の!返して!

 

とにらむと

 

 

 

 

 

なぜか、すたすた戻ってきて

 

 

 

私に60セントを手渡し、「ゴメンね」とジェスチャーしました。

 

 

 

 

 

いやいや、謝るんなら最初からやるなよ!

たったの60セントも奪って逃げる気概のないひったくり犯に出会い、なんか拍子抜け。

 

 

 

だけど、そんな気弱なひったくりでも、私の心に恐怖心を植え付けるには十分すぎるくらいでした。

 

 

 

いままで順調すぎるほど、危険な目にも合わず、だまされることもなく、怖い思いを一切せずに過ごしてきた旅。

 

 

私の心にも、多かれ少なかれ気の緩みが生まれていたことは間違いありませんでした。

 

 

 


 

本当は宿にチェックインしたあとも出かける気満々だったけど、なんだかどっと疲れてしまった上に、心がそわそわざわざわして落ち着かなく

 

 

話し相手を求めて携帯を握りしめるも、日本時間は午前3時。

 

 

こんな時間に起きてる人なんて…

 

 

と思ったときに、脳裏に浮かんだ旅人先輩のりさん

 

 

さっきの体験をまくしたてるようにしゃべって、のりさんの旅先のもっとやばいハプニングをいろいろ聞いて、少し気持ちが落ち着きました。

 

 

さすがパイセン。。。経験してることも半端ないっす。深夜にほんと感謝m(_ _)m




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ひとりのり 

 


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少し落ち着きを取り戻したものの、すっかり気が滅入り出かける気分になれなかったので、その日は宿でゆっくりと過ごしていました。

 

 

 

夜も更けてきたころ、ドミトリーにアジア系の女の子がやってきました。

 

 

私は、日本人かどうかが分からないときは、まず英語を聞きます。

 

 

顔は似ているアジア人だけど、日本人と韓国人と中国人などは、英語の発音が全然違うので、だいたい挨拶すれば分かる!たぶん。

 

 

オーナーとの会話で聞こえてくる英語は、まぎれもなく日本人のもの!

 

 

 

 

モロッコから一人旅になってから、全然日本人に会っていなかったので、嬉しすぎて話しかけてしまいました!

 

 

 

すると、彼女もやはり、しばらく日本人に会っていなかったとのこと。

 

 

 

もう爆発的な勢いで喋りまくるふたり。

 

 

 

気づけば深夜になっていました。

 

 

久しぶりに日本人に会い、言葉が不自由なく使える会話のありがたさを感じ、すっかり満たされました。

 

 

 

 

 

一年前、石垣島で人生初の一人旅をしたときに、ドミトリーで一緒になった女の人が

 

 

 

旅のおもいでは、人のおもいでだから

 

 

 

と言っていたのをふと思い出したこの日。

 

 

誰ともかかわりを持たない一人での旅は気楽だけど、思い出としては一味足りない感じがしてしまう。

 

 

そして、どんなに素晴らしい場所であっても、そこで出会った人、そこでの経験が、旅先の印象を大きく左右してしまう。

 

 

 

私はこのポルトという街がとても気に入っていたけれど、一人旅で心細さを感じているさなか、ひったくり未遂に遭ったという経験が、間違いなくこの街から私を遠ざけてしまいました。

 

 

 

もともと落ち込むと立ち直りは遅いタイプ。

 

 

大好きなはずのポルトを離れ、リスボンに戻る決意を固めた、長い長い一日は、こうして幕を閉じたのでした。思い返しても、人生で一番長い一日だったかもしれない。

 

 



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